じぶんの居場所
女子高生をフォローしてみよう。
それはけっしてよこしま気持ちでわきあがってきたかんがえではなく、純粋に10代の女の子が一体どういうことをつぶやくのか興味があっただけだ。信じてほしい。そしてきみなら信じてくれるだろうから話を先に進めるが、とにかくわたしは女子高生をいっしょうけんめいに探した。でも探す必要なんてなかった。
わたしをフォローしている人の中に、ひとりの女子高生がいたんだ。
彼女はその年の春から高校生になったばかりだった。
当時は梅雨になろうという時期だったので、彼女が高校に入学してから2ヶ月近い時間が経っていたはずなんだけど、彼女はあまり高校での話をツイートしなかった。クラスのことも部活のこともなにもツイートしない代わりに、彼女はいつも中学時代の友だちとの楽しかったことばかりをつぶやいていた。
「去年のいまごろは....」
「卒業したときは...」
彼女の言葉はいつも昔のことばかりを語った。
そのせいで彼女のいまはまったくわからないままだったけど、中学時代のことはいろいろと知ることができた。高校のことはわからないが、中学はたのしかったようだ。
それからも変わらない毎日が続いた。
そして彼女の高校は夏休みにはいった。
夏休みはとおくに友だちと泊りがけのアルバイトに行くと言っていた彼女は、ある日をさかいにぷっつりとツイートがなくなった。
その頃にはあまりにかわりばえのしない状況に飽きており、すでに興味の大半をうしなっていたわたしは、不在の日々が数日続いただけであっという間に彼女のことは忘れてしまった。彼女の不在で生まれた隙間は、まるで最初からなにもなかったかのようにあっという間に別の興味あるもので上書きされた。
うだるような暑さと無くならない仕事しか記憶にない夏も終わり、そして秋になった。
いそがしかった日々からやっと解放されたわたしは、平日に休みをとって家でだらだらとすごしていた。音楽を聴きながらtwitterをひらくと、そこに見慣れないアイコンとみおぼえのあるIDが表示されていた。夏休み以来、みかけなくなっていた彼女だった。
アイコンは彼女の顔写真になっていた。
写真が小さすぎてかわいいのかどうかはわからなかったけど、前のアイコンでつかっていた海と青空だけをうつしたまぶしいくらいに青い写真がすごく好きだったのでとても残念だった。
おどろいたのはアイコンがかわったことだけではなかった。
彼女は学校をやめてはたらいていた。夏休みが明けてすぐにやめたらしかった。
夏休みにアルバイトをしたことが関係しているらしかったけど、くわしい理由はわからなかったし、知りたいとも思わなかった。
仕事はアパレル関係とだけ書かれていた。
でも仕事のことはツイートせずに、いつも夏休みの楽しかったアルバイトのことばかりをつぶやいていた。海の家に住み込みのアルバイトをしたらしく、そのときのことを何度も何度もたのしそうにつぶやいていた。
そこでようやく気づいた。
彼女はいつもいまではなく過去のことばかりをつぶやいていることに。
いまではなく、もうもどれない過去のことばかりを彼女は口にしていることに。
彼女にとって、いまいるその場所は「じぶんの居場所」 じゃないのかも知れないと思う。
「美化された過去だけが彼女にとっての居場所なんじゃないか」
「過去を振り返りそこに自分の理想を投影してその思い出の中に生きているんじゃないか」
そんなことを考えながら、なにも知らない他人のことをそこまで決めつけてしまっている自分におもわずわらってしまった。
声にだしてわらいながら、そっと彼女をフォローからはずした。